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京都議定書って何?

NPO法人 信州伊那谷自然環境再生研究会 代表
島田 洋治

 皆さんは「京都議定書」とは何かご存知ですか?
 聞いたことはあるが? という方が多いのではないでしょうか。
 この「京都議定書」とは、地球温暖化を防止するための国際的な取決め(国際条約)で、最近マスコミで頻繁に取り上げられるようになりました。しかし、その内容を知っておられる方は、少ないのではないでしょうか。
 地球温暖化を防止するための国際条約である「京都議定書」が、実はとても“身近なこと”なのに、まだあまり周知されていないように感じられます。そもそも既に「京都議定書」という題目の言葉からして、難解で硬く近寄りがたいモノに聞こえますからね。
 それが本年より「京都議定書」による「第一次約束期間」がスタートしてしまったのです。日本は温室効果ガスの削減義務を『誠実に尊守』することを世界に約束し実行することになったのです。
 そこで「京都議定書」なる国際条約が、本当はすごく“身近なこと”であり、地球温暖化対策そのものが“自分のこと”なのだという意識を持っていただきたく、この紙面をお借りして今回から4回に分けて、『京都議定書とは何か』ということを、簡単にできるだけ分かりやすく説明をさせていただくことにします。それでも色々と実感のない大きな数字や難しい専門用語が出てきますので、やはり難解かもしれませんが。
 ここで取り上げ説明をさせていただく内容は、以下の1~5項目です。

 1.地球温暖化問題
 2.京都議定書
 3.森林による吸収
 4.京都メカニズム
 5.排出削減

 まずそもそも「地球温暖化」とは何かということ、そしてその対策となる国際的な取決めの「京都議定書」と、その本旨の中身である「森林吸収」「京都メカニズム」「国内削減枠」という各論について、簡単ですが説明をさせていただきます。その上で最終項に、今私達が“身近なこと”そして“自分ごと”として意識し考えること、行動することを私見として述べさせていただきます。
 今回の第1回目は、まず「地球温暖化」「京都議定書」から説明を始めることにします。


1.地球温暖化問題
 地球温暖化問題については、身近な気候変動が「今までと違う、何だか変だ」ということが肌で感じられるようになり、誰しもがその問題を他所事(よそごと)ではなく実感として認識されるようになったのではないでしょうか。
 この問題の最大の原因は、近年大気圏の温室効果ガス濃度(特に二酸化炭素:CO2)が急激に高まったことにあります。その詳細はここでは省きます。
 地球温暖化メカニズムのイメージとしては、まずご家庭の炬燵の掛け布団の厚さをイメージしてください。掛け布団が薄い毛布程度のものだったのが、とても厚い布団になったというのが分かりやすいでしょう。つまり、毛布程度の薄い掛け布団ならば、炬燵の中の遠赤外線は、掛け布団から外に漏れて行き、炬燵の中の温度はそれ程上昇しません。それがとても厚い掛け布団になると、炬燵の遠赤外線は内部にとどまるため、炬燵の中の温度は上昇し熱くなるという話しです。炬燵の中が地球で掛け布団が大気圏になります。
 毛布程度の掛け布団の温度ならば、足を入れていても丁度よい温度なのですが、とても厚い掛け布団になり炬燵の中の温度があまりにも上昇すると、そこには足を入れることができなくなるということです。もちろん現段階の炬燵の中(地球)はまだ足を入れることができないほどには上昇しておりません。やや暖か目のヌクヌクとした快適さで、たまに熱くなるため足を炬燵の外に出してしまう程度の状態です。
 京都議定書の狙いは、将来を見据え今のうちにこの掛け布団を少しでも薄いものに変えようというところにあります。しかし、人類は一度快適な暖かさを覚えると、寒さに向かうことを嫌がるもので、色々な理由を付けてはいつまでも暖まろうとします。京都議定書の批准にしても、それがそのまま国家のエゴとして現れてきており、世界最大の温室効果ガス排出国のアメリカなどはまだ批准しておりません。また、中国もアメリカに次ぐ排出国なのですが、発展途上国として位置付けられているため削減義務はありません。不可解な話ですが現時点ではやむを得ないのでしょう。ただ中国の場合は、国民一人当たりの排出量はアメリカの1/4と少ないのです。

CO2排出量

※世界のCO2排出量(2002年) 出典:環境省地球環境局作成資料より


2.京都議定書
 京都議定書は、1997年12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締結条約国会議(COP3と略されています)」で採決されました。これも難しい言葉の会議ですが、早い話が地球温暖化対策のため京都で開催された国連の会議程度に理解してください。
 この京都会議において二酸化炭素など6種類の温室効果ガスについての排出削減義務などを定めた国際的な約束が取決められました。それが「京都議定書」と呼ばれ、2005年2月に発行することになったのです。 この京都議定書で日本は、1990年を基準年として温室効果ガスの6%削減が義務付けられました。なおこの京都議定書には後で触れますが、排出量取引などいわゆる「京都メカニズム」という新しい仕組みも導入されました。
 この京都議定書の「第一次約束期間」が2008年~2012年の5年間ということで、本年より実質的にスタートしたというわけです。この5年間で毎年温室効果ガスを6%削減しなくてはならないのです。
 さて1990年を基準年とした温室効果ガスの6%削減の内訳ですが、森林による吸収分が3.8%、国内努力による排出削減が0.6%、京都メカニズムによる海外調達が1.6%となっています。1990年の日本の温室効果ガス排出量は、二酸化炭素換算にすると約12億6,100万トンとされており、その6%の約7,600万トンが日本に割り当てられた排出削減量になります。とても大きな数字で量的に実感がありませんが、すごい量であることは間違いないですね。

京都議定書の概要
京都議定書の概要

 この6%という数値の排出削減は決して簡単なものではありません。単純に国内努力(技術革新、自然エネルギー利用、エコシステム改良など)のみでこの6%を減らす場合、日本の省エネ技術は既に世界の最先端ですから、これからさらに削減するとなると二酸化炭素1トン当り約5万円程度(これ以上)かかるといわれております。つまり7,600万トンの二酸化炭素の削減費用は、3~4兆円という膨大な金額になります。これは現実として実現できる数値ではありません。
 そこで現実的な数値として、交渉の結果本来ならば「森林吸収分」のカウントはもっと少ないのですが、日本は森林面積が国土の67%、つまり国土の50%以上が森林であるという理由から「森林吸収分」を3.8%まで認めてもらい、国内排出削減を0.6%、京都メカニズムで1.6%という割り振りで落ち着いたようです。
 しかし、現状は既に温室効果ガスの6%削減では済まない事態になっています。 2005年実績では、日本の温室効果ガス排出量は1990年より既に7.8%程度増加しています。つまり今後6%+7.8%=13.8%削減を実現しなくてはならないのです。現在でさえ国内努力による排出量の削減が困難だというのに大変なことです。増加した原因は民生部門(商業・サービスや家庭部門)の増加が大きいようです。これについては第4回目に改めて示します。

日本における温室効果ガス発生量の状況と削減目標
日本における温室効果ガス発生量の状況と削減目標
参考:地球温暖化対策推進本部作成資料より抜粋

 なお京都議定書の第1約束期間は、2008年~2012年ですから、2013年以降の第2約束期間についての国際的な枠組みはまだ決まっておりません。これについては今年開催の第14回締結条約国会議で国際的な枠組みの見直しが行われる予定です。しかし、京都議定書では、温室効果ガス排出大国であるアメリカの不参加だけでなく、中国やインドなど経済発展がめざましい途上国に排出量の削減義務がないといった課題が指摘されているため、ポスト京都議定書の締結に当っては相当困難でハードな協議が行われることになるでしょう。
 また、京都議定書には罰則(排出枠不尊守)規定があります。それは京都議定書により約束した割当量を超えて排出した場合には、(1)超過した排出量を3割増にした上で次期排出枠から差し引く(次期削減義務値に上乗せする)。(2)京都メカニズムの排出量取引において排出枠の売却ができなくなる。という2項目の厳しい罰則規定があります。いずれにしても大変なことです。


 「1.地球温暖化問題」、「2.京都議定書」では「地球温暖化」とは何か。炬燵の掛け布団が大気圏で炬燵の中が地球というイメージになる。そしてその掛け布団を少しでも薄いものにしようという国際的な取決めが「京都議定書」で、日本は1990年度の段階より6%の温室効果ガス削減を2008年~2012年の5年間で毎年実施すると世界と約束しました。しかし、2005年段階では既に1990年度より7.8%も増加しており、CO2削減の厳しさを示しました。
 「3.森林による吸収について」では、「京都議定書」の中身である「森林吸収」「京都メカニズム」「国内削減枠」という各論の内、「森林吸収」について説明をさせていただきます。

3.森林による吸収について
 日本の国土面積は3,779万haあります。その内の森林面積は2,510万haつまり国土の67%に当たります。この森林面積の内、「天然生林」が約1,300万ha、「育成林(人工林)」が約1,100万haで残りが竹林などになります。
 この森林の内、森林吸収分としてカウントできるのが「育成林(人工林)」の約1,100万haと「天然生林」の内でも保安林、保護林、自然公園の部分の森林が対象になります。ちなみに1haは100m×100mの面積単位です。
 京都議定書で日本に認められた森林吸収分の炭素量の上限値は1,300万トンです。全排出量の約3.8%になります。日本の二酸化炭素換算の総排出量約12億6,100万トンの約3.8%で約4,800万トンという膨大な量になります。ここで紛らわしいのが、炭素量(C)と二酸化炭素量(CO2)の違いです。簡単には、炭素量1に対して二酸化炭素量は3.7の比と考えてください。O2(酸素)の部分だけ重くなります。ですから炭素量1,300万トンは、概ね二酸化炭素量4,800万トンになります。
 京都議定書は、以下の1~4の森林のみを森林吸収源として定義しています。

 1.新規植林(過去50年間森林がなかった土地に植林)
 2.再植林(1990年より前に森林でなかった土地に植林)
 3.森林減少(森林を他用途に転換)
 4.人為的活動(森林経営と定義)で1990年以降に実施された分

 この内、日本では1〜3はほとんど該当しません。4.人為的活動(森林経営)の場合のみ森林吸収分としてカウントされます。そこで人為的活動(森林経営)つまり適切な森林施業(植栽・下刈・除伐・間伐など)が実施された森林である「育成林(人工林)」と、「天然生林」の内でも保安林、保護林、自然公園の部分の森林になるのです。
 「天然生林」の内、保安林、保護林、自然公園以外の森林だって、二酸化炭素を吸収しているだろうと思われる方もおられるでしょう。しかし実は天然生林の全てではありませんが、天然生林は安定期の森林と考えます。この森林は二酸化炭素の吸収と排出がバランスしてしまうため、それほど炭素の貯蔵量は増えません。

樹種別・林齢別炭素吸収量
樹種別・林齢別炭素吸収量
出典:林野庁「森林・林業白書(平成16年度)」より

 樹種別・林齢別炭素吸収量のグラフに示すように、林齢が20~30年以上になると炭素吸収量が低下してきます。このため森林吸収分としてカウントするためには人為的活動(森林経営)で森林施業、つまり所定の林齢になれば間伐や伐採を行うことが必要になるのです。また、除伐、間伐を行わなければ細い幹のままの林になってしまいますが、除伐、間伐を行えば残った樹木は太りますから森林の総体の炭素吸収量・貯蔵量は増加するというわけです。
 老齢木も光合成により二酸化炭素を吸収し生きるエネルギーに変換しますが、成長のための炭素貯蔵量の増加量は非常に少なくなります。樹木も生き物ですから酸素を吸い二酸化炭素も吐き出します。
 そして老齢木は何らかの原因で倒木(枯死)すると、その空間を縫って若木が成長してきます。若木は盛んに光合成を行い、二酸化炭素を吸収・貯蔵し成長します。しかし、その吸収・貯蔵される二酸化炭素は、枯死した老齢木が微生物により腐植分解され排出された二酸化炭素なのです。ですから天然生林(自然林)の炭素の収支はプラスマイナスゼロ(0)、つまりバランスしていると考えます。このことを「カーボンニュートラル」あるいは「カーボンフリー」ともいいます。最近あちこちで聞かれるようになった言葉です。
 さて、森林吸収分としてカウントされる「育成林(人工林)」や「天然生林」の内の保安林、保護林、自然公園の森林ですが、先に述べましたが京都議定書では1990年以降に人為的活動(森林施業など)が行われた森林のことを指します。これが問題なのです。
 かつて1960年代まで里山であり薪炭林の山であった森林、あるいはスギやヒノキを植林したが、その後のエネルギー革命や山村の過疎化でそのままに放置された森林(放置林)が大部分を占めているのです。もちろん1990年以降も手入れはされておりません。それらの森林が丁度今、間伐などの森林整備を行わなくてはならない時期にきているのです。特に森林経営が困難な場所、つまりかつては里山だったが現在は「奥山」になってしまったような森林を、第一次約束期間内に人為的活動を行ったという森林形態にしなくてはならないのです。だけど現実は多くの問題を抱えているのです。
 その一つがシカの異常増加です。森林を間伐などの手入れをすれば、その森林内の林床には光が入るため低木や草が生えるようになります。その低木や草がシカの餌になるのです。つまり間伐をすればシカの餌場が増えるため、シカがさらに増加するという悪循環になっています。かつてのように森林1haにシカが1~2頭の生息数ならば、自然界が均衡し生態学的にも丁度バランスしていたのですが、今や森林1haに10頭以上、場所によっては30頭以上も生息しているので、彼らの生活は常に餌不足状態です。だから何でも食べます。栄養価の低い針葉樹の樹皮まで食べなくてはならない状態なのです。
 これほどまでにどうしてシカが増えたのか。その原因を要約すると、里山と奥山との境界、つまり人の生活領域と自然領域の境界が不明瞭になったこと、狩猟者の減少、高齢化による狩猟効率の低下、子ジカの天敵であるキツネの減少、地球温暖化に起因する可能性の高い積雪の減少とそれによる子ジカの死亡率の低下などが指摘されています。
 現段階では、とにかく何とか人為的に頭数を減らす、コントロールする以外に対策は無いのではと考えます。
 さらにもう一つに森林整備の困難性があげられます。日本の森林地形は急峻でしかも奥が深く人が近づくことが困難な場所が多いのです。かつて1960年代以前はそのような奥山(当時は里山であった)の森林でも、片道5時間かけて歩いて行き、炭を焼き、炭を担いで5時間かけて歩いて帰るような山林経営が可能であったのですが、今ではそんなことはできません。
 その奥山(薪炭林)の放置林は現在アカマツの疎林とコナラを主体とした単純林になっています。将来の遷移(せんい)を考えるとこのような単純林は弱いのです。山が荒れます。
 コナラはクヌギと同類でいわゆるドングリの木です。樹種別・林齢別炭素吸収量のグラフに示すように、クヌギ(コナラ)は林齢が20年をピークに極端に炭素吸収量が低下します。このことは20年以降の成長が鈍化する、つまり樹勢が衰えることを意味します。
 かつて先人たちはこのことを理解していました。だから20年程度を目安に伐採し薪炭として活用してきたのです。伐採された切り株から新しい芽が出てきます。萌芽更新(ぼうがこうしん)といい、やがて成長して新しい薪炭林を形成します。これが繰り返され山林は維持されてきました。
 現在、コナラやクヌギが樹齢20年以上になると、カシノハガキクイムシという害虫が侵入し枯死する状況が全国的に顕在化してきています。
 伊那谷の伊那山地や中央アルプス山系は花崗岩地帯で、急峻で岩盤の上の表土が薄いため表層崩壊が発生しやすい地質です。このような地質上に生育するコナラやクヌギは、枯死すると悲惨なことになります。単純林ですから花崗岩の表土を保持・緊縛する他の樹木が少ないのです。つまり山腹の崩壊が進むのです。森林崩壊が国土そのものの崩壊につながるのです。
 ではこのような森林を今後どのようにして人為的活動を行ったという森林にしていくのでしょうか。これらの問題解決には「森林税」程度の費用では間に合わないかもしれません。
 極端な話しですがシカ問題も森林整備も国土の大災害に直結する重大問題として、災害対策出動の名目で『自衛隊』の皆さんにお願いしなくてはならないような事態になるかもしれません(冗談話ではなく)。いずれにしてもどのようにすればよいのでしょう。これらは大きな課題です。 最後に飯田市の森林によるCO2吸収量についても述べておきます。
 一般的に森林による年間の炭素吸収量は、1ha当り約1トン程度と考えられております。もちろん厳密には、樹種や森林状況によっても違いがあり、この数値以上を示す場合もありますが、この程度に設定しても問題はないでしょう。樹種別・林齢別炭素吸収量のグラフが参考になります。
 飯田市の場合、森林面積は全面積の87%を占め約5.5万haで、まさに山国です。飯田市の森林はほぼ全て人為的活動に該当する森林ですから、先の数値を当てはめると、飯田市の森林による炭素吸収量は、年間約5.5万トン程度になります。CO2換算では約20万トンです。
 ちなみに飯田市のCO2排出量は、約71万トン(2005年)ですから、概ねCO2排出量の30%程度は森林で吸収されていることになります。しかし、森林への吸収分を差引しくと、年間50万トン程度(全量の70%程度)のCO2が飯田市からも排出されているのです。 都市部に比べたら少ない数値かもしれませんが、現実的には87%という広い森林面積を持つ山国の飯田市でさえCO2排出者側なのです。CO2排出者側とは、東京などの大都市部だけに限るものではないのです。


 「3.森林による吸収について」では、「京都議定書」の中身である「森林吸収」「京都メカニズム」「国内削減枠」という各論の内、「森林吸収」について示しました。
 京都議定書で日本に認められた森林吸収分は、全排出量の約3.8%(炭素量換算で1,300万トン、CO2換算で4,800万トン)を吸収目標にしており、人為的活動(森林経営)の場合のみ森林吸収分としてカウントされる。しかし、多くの課題がある。シカの異常増加、困難な奥山の森林経営、クヌギの単純林になった薪炭林の放置林など。さらに飯田市の森林吸収量は、CO2換算で約20万トンだが、年間50万トンが排出されており、飯田市はCO2排出者側になるなど。
 「4.京都メカニズム」「5.排出削減について」では、「京都議定書」の各論の内の「京都メカニズム」「国内削減枠」について説明をさせていただきます。

4.京都メカニズムについて
 京都議定書には、「京都メカニズム」という全く新しい仕組みが導入されました。これがまた難解なのです。
 京都メカニズムは、国内での単なる排出量削減を除く植林活動や、国外での活動、削減量の国家間取引など、温室効果ガスの削減をより容易にするための仕組みで、柔軟性措置とも呼ばれます。一般に、(1)クリーン開発メカニズム、(2)排出量取引、(3)共同実施の3つのメカニズムを指します。ちなみに日本は、この京都メカニズムによる削減を1.6%見込んでいます。二酸化炭素換算で約2,000万トン、炭素換算では530万トンに相当します。

(1)クリーン開発メカニズム
 CDMとも略されています。先進国が開発途上国に対して資金や技術を援助して温室効果ガスの削減・吸収する事業を実施し、その見返りに削減・吸収した温室効果ガスと同等量を先進国側の削減分としてカウントできるシステムです。
 例えば開発途上国での植林事業に先進国が資金を提供し、それによって得られる二酸化炭素吸収分を先進国側が削減分としてカウントできるというものです。

(2)排出量取引
 各国ごとに温室効果ガスの排出枠を定め、排出枠に対する温室効果ガスの削減量に応じて発行される「排出権(炭素クレジットともいいます)」を、排出枠を越えて排出してしまった国や企業と取引する制度です。「排出権(炭素クレジット)」つまり目に見えない炭素をお金で売り買するというシステムです。キャップ・アンド・トレードともいいます。
 例えばロシアのような排出枠に余裕のある国と、日本のような余裕のない国が、ロシアから余裕分をお金で買うということです。日本のように温室効果ガス削減費用が高い国では場合によっては、お金を払ってでも余裕分を買ったほうが安く済むかもそれません。なんだか釈然としませんが。

排出権取引の例
排出権取引の例(キャップ・アンド・トレード)

(3)共同実施
 JIとも略されています。自国内の努力や(1)(2)の行為により温室効果ガス排出量を削減した分を、先進国同士間で取引(売買など)するシステムです。ただこの仕組は、先進国全体の排出量が変わるものではありません。単なる権利の売買です。これもなんだか釈然としません。
 いずれにしても、これら京都メカニズムは、各国の数値目標を達成するための補助的手段として市場原理を活用するものです。 ここで②排出量取引において、実際いくらお金が動くのか、その可能性を述べておきましょう。
 『2.京都議定書』の説明の中で、日本の温室効果ガス排出量は1990年より2005年度では既に7.8%程度増加していること、そして今後6%+7.8%=13.8%削減を実現しなくてはならないということを示しました。次項で述べますが現状では国内努力のみでこの13.8%全てを削減することは不可能です。その場合、京都メカニズム制度を活用することになりますが、②排出量取引により解決するとなるとどのくらいのお金(たぶん税金ですが)が必要になるか計算してみます。
 この削減量1%を単純に炭素量として換算しますと約330万トンになります。現在の世界相場は、炭素1トン当り約1万円です。つまり炭素量1%分の削減取引のお金は、330億円必要になります。仮に当初の京都メカニズム見込み値1.6%と増加分7.8%の合算数値全てを賄うとすれば、削減量は9.4%になりますから約3,100億円程度のお金が必要になります。しかも毎年です。何の努力もしないで、老朽化の激しく二酸化炭素を膨大に吐き出している工場を抱えるロシアなどの国に支払うのです。しかも市場原理は恐ろしいもので、困っている所(例えば日本など)は足元を見られ徹底的に叩かれます。今後、炭素の世界相場はさらに上昇すると考えられております。日本も色々な努力は行うでしょうが、それでも毎年数千億円の出費を覚悟しなくてはならない事態になる可能性は大きいのです。そしてその費用はたぶん税金です。「環境税」とか「炭素税」とかと呼ばれる税金になるのでしょう。
 私たちが享受してきた快適な生活を保持するためには、CO2排出はある程度仕方のないことなのかもしれません。しかし、CO2排出はコストであるという認識を強く持つ必要があります。


5.排出削減について
 「排出削減」これは早い話が国内での森林吸収以外の自己努力による削減を指します。日本は当初この自己努力による排出削減を0.6%見込んでおりました。おりましたというのは、2005年度は削減どころか7.8%も増加してしまっているからです。つまり京都メカニズムを用いない場合は、約8.4%を国内で自己努力により削減しなくはならないのです。
 日本企業の省エネ技術は世界のトップレベルです。これまでも公害問題の克服などにより技術力を高めてきました。そのため今後さらに温室効果ガスの排出を劇的に削減することは、現実的には相当困難なようです。部門別のCO2排出量の統計を見ると産業部門の排出量が減少していることからもその企業努力を推察することができます。
 産業部門のCO2排出側の大口企業は、中部電力のような電力会社になります。今まで電力会社もCO2排出削減は当然行ってきておりましたが、これ以上の削減、あるいは京都メカニズムを用いた炭素クレジットの使用は、企業体力の消耗に直結しますから難色を示しています。そのため現在、電力各社はCO2排出削減の切り札として「原子力発電」を前面に出しています。もちろん日本のエネルギー政策の根幹には「原子力発電」を最重点に位置付けています。しかし、昨年の新潟県刈谷原発の地震による被害の復旧が、今後の再開予定すら立たない状況にあり、電力会社(当然東京電力ですが)は困窮しているのが現状のようです。なお、「原子力発電」によるCO2排出削減枠をドイツは認めておりません。もっともドイツは「脱原発」を標榜している国ですから当たり前ですが。

日本におけるCO2の部門別排出量
日本におけるCO2の部門別排出量
出典:地球温暖化対策推進本部作成資料より

 さて、部門別排出量グラフからも分かりますが、年々増加しているのが「家庭部門」と商業・サービス・事務所などの「業務その他部門」です。
 家庭での冷暖房機器の普及やハイテク機器を始めとする高度化したオフィス環境への変化がこのような数値となって表れているのでしょう。現在この部門のCO2排出削減としては、省エネ環境住宅の普及や太陽光発電、風力発電などの活用などが行われています。ただ太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー利用発電は、電力会社への余剰電気の売買に技術的課題があるようです。それと電力会社はあまり積極的な動きはしておりません。電力会社は電気を売る側であり買う側ではないからでしょうね。
 ドイツでは太陽光発電をはじめとする自然エネルギー利用発電を積極的に奨励し、その余剰電気の売買には国策的な関与をしています。その結果高いCO2排出削減を実現しています。日本も各家庭レベルで排出削減ができる自然エネルギー利用発電などの社会システム作りを、国策的に進めるべきなのでしょうが。
 自然エネルギー利用については、この伊那谷でも飯田市を中心に太陽光発電、風力発電などや森林資源を活用したバイオマス燃料の普及が進んできました。もちろんそれには、飯田市が環境施策として主体的に関わっています。今後、地域としての化石エネルギーを使わない新たなエネルギーとしての取組みの広がりと、それが脱炭素社会システムの形成につながることを期待します。
 しかし、ドイツの例にもあるように、もはや日本全体の社会構造・経済社会システムそのものを大変革するような、政治的、国家的な施策を打ち出さない限り、CO2排出量の根本的削減は難しいでしょう。ただ残念ながら日本の政治的現状は、道路財源(ガソリン税)を堅持したい政治家や官僚が、「道路を造れば渋滞が緩和しCO2排出が減少する。だから道路を造れば地球温暖化に寄与する。」などという子供だましのようなお粗末な論理を堂々と公に掲げるような環境認識度が低レベルの政治国家ですから、根本的な社会構造・経済社会システムを変革するような事態には至らないかもしれませんね。
 それでも日本は「2050年までに世界全体の排出量を現在より半減する」という長期目標を提唱しています。だから何としても排出削減をしなくてはなりません。とはいえ環境問題は政治家や行政、国にだけ任せるのではなく、まず“自分ごと”そして“身近なこと”として捉え、できることから自らが行動するという大原則の保持は必要でしょう。


 「4.京都メカニズム」「5.排出削減について」では、「京都議定書」の中身である「森林吸収」「京都メカニズム」「国内削減枠」という各論の内、「京都メカニズム」「国内削減枠」について示しました。
 「京都メカニズム」については、各国の数値目標を達成するための補助的手段として市場原理を活用するもので、(1)クリーン開発メカニズム、(2)排出量取引、(3)共同実施の3つのメカニズムがあること、日本はこの京都メカニズムによる削減を1.6%見込んでおり炭素換算では530万トンであることなど。
 「国内削減枠」についは、CO2排出が2005年度には7.8%増加し、約8.4%を国内で自己努力により削減しなくはならないこと、「家庭部門」と商業・サービス・事務所などの「業務その他部門」が増加したこと、社会構造・経済社会システムそのものを大変革の必要性を示しました。
 「6.“身近なこと”そして“自分ごと”」では、最終項になりますので「京都議定書」を総括し、今私達が“身近なこと”そして“自分ごと”として意識し考えること、行動することを私見として述べさせていただきます。

6.“身近なこと”そして“自分ごと”
 地球温暖化問題解決の困難性は、今までその問題の本質が“自分ごと”に感じられていなかったということにあります。さすがに近年の気象変動の異常さは、将来に対する危うさを肌で感じます。だから誰しもが直感的に“自分ごと”として捉えられるようになってきているのではないでしょうか。
 今まで述べてきたように、温室効果ガスの削減には膨大なコストを必要とします。そのコストも“自分ごと”として考えなくてはならない状況にきています。また、その覚悟は必要です。
 「4.京都メカニズム」「5.排出削減について」にも記述した文章を繰り返しますが、私たちが享受してきた快適な生活を保持するためには、ある程度のCO2排出は仕方のないことなのかもしれません。しかし、CO2排出はコストであるという認識を強く持つ必要があります。 このコスト意識の顕著な現われとして、最近「カーボン・オフセット」という手法が注目されはじめました。今年は「年賀はがき」にも採用されています。


郵政公社が発行した カーボン・オフセット付き年賀はがき
55円のうち寄付5円がオフセットに該当

 カーボン・オフセットとは、自らのCO2の排出量を認識し、自ら削減する努力を行うことを前提としますが、それでも削減が難しい場合は、その分の排出量について『他の場所で実現したCO2の排出削減・吸収量などを“購入”する』または『他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を“実施”する』ことなどにより、その排出量を埋め合わせる(オフセット)ことをいいます。
 環境省はこの手法を国民運動にまで持っていこうと考えています。さらに、カーボン・オフセットの取組みは、京都メカニズムを利用することも含まれますが、この取組みの最大の意義は、地球温暖化問題は“他人ごと”ではなく“自分ごと”として捉え、自らがCO2削減活動を“実行する”ことにあるとしています。そして、カーボン・オフセットの取組みを通じてCO2排出が“コスト”であるという認識を経済社会に組み込みたいという強い想いがあるようです。
 少し本旨から外れますが、今年初めより中国製食品類の安全性が大きな社会問題として取り上げられています。その結果、中国製食品類の買い控えが発生し、またその輸入も今停止しています。
 単に安いから、利益が得られるから、何もかもがグローバリズムと市場原理至上主義思想に基づく経済社会システム、つまり「ダーウインの進化論」に根ざした、まさに「優勝劣敗」「適者生存」のみが正しいとしてまい進してきたのが現在の世界的な経済社会システムです。その流れに任せて従ってきた結果、食料自給率38%という先進国でありながらも稀な国家が生まれてしまったのです。
 中国製食品類の安全性問題が、図らずも日本の食糧危機管理の不備・未熟さと、食料自給率38%の現実の危うさを国民の多くが感じたはずです。この問題(事件)の発覚を契機に、国内で生産される安全な食料・農産物を安心して食べることの崇高な意義と、そして食品安全性はコストであるということが認識されはじめました。案外今回の中国製ギョウザ事件?が、日本の食料自給率向上に貢献するような気がします。食べられて体調を悪くされた方には申し訳ないことですが。 本旨に戻します。この中国製食品類の安全性問題の本質は、地球温暖化問題にもつながります。
 20世紀後半からの急激な温暖化ガス濃度の上昇は、「優勝劣敗」「適者生存」論理によるグローバル化した市場原理のもとで、利益優先、利便性の追及、快適性の追及に突き進んだ結果だったと私は考えます。 地球温暖化問題の危うさを誰しもが直感的に肌で感じ“自分ごと”として捉えられるようになってきたことは、今までのような利益優先、利便性の追及、快適性の追及のみでは立ち行かないことを、心のどこかで感じ、何とかしようと考え、行動する人たちが多くなるはずだと思っております。
 地球温暖化問題がここまでくれば、もはや空気はタダではありません。食品安全性の確保がタダでなくなりコストであることが常識になった今、やはり安心して生き抜くための空気もタダではなくコストなのです。コストだけにこだわる訳ではありませんが、その意識改革が急務だと言いたいのです。
 もちろんそのコストは、単に金銭的な捉え方もありますが、自らの行動・活動もコストとして捉えます。つまり、これからは“誰かに”“どこかで”コストを負担してもらう、ということはあり得ないのです。“自分ごと”であり“身近なこと”なのです。
 私は、地球温暖化問題の本質的なところにあるグローバリズムと市場原理至上主義思想には限界を感じています。生態学的に思考するならば、グローバル化と市場原理だけでは生態系は滅びます。そこには『すみ分け論理』が必要だと考えています。これについては、機会があれば改めて述べさせていただきましょう。
 最後のまとめの段階で話が色々な方向に向かい集約が困難な状況になってしまいました。これ以上続けると「京都議定書って本当は何なの?」ということになりそうですので、本稿はこれぐらいにしておきます。 本年より「京都議定書」による「第一次約束期間」がスタートしました。そして日本は温室効果ガスの削減義務を『誠実に尊守』することを世界に約束し実行することになりました。という文章で終わりにさせていただきます。 簡単にきるだけ分かりやすくと意識したのですが、やはり難解な文面になってしまいました。何かの参考にしていただければ幸いす。 合掌

飯田市大久保町在住
技術士(建設部門)
環境カウンセラー(環境省)