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循環型社会と国内森林資源の活用

NPO法人いいだ自然エネルギーネット山法師
事務局長 平澤和人
(環境カウンセラー)

1.はじめに
 戦後、日本の経済発展を支えたのは、国民の勤勉さといわれる。しかし、それ以上に重要な点は、良質でしかも安価な水が大量に利用できたことにある。日本は、温帯モンスーンという気候帯に位置し、適度な降水量に恵まれているうえに豊かな森林資源を有することから、暮らしや産業を支える水の利用に事欠かないできた。また、森林は、治山や水源涵養の他、燃料、生活資材、林産物など、主食糧以外の全てを供給してくれる重要な資源として、いつの世も大切に扱われてきた。しかし、石油化学製品の氾濫と市場主義の横行により、森林整備には手が行き届かず、今や国産材の利用率は20%を切るまでに至っている。国内森林の成長量は、国内の木材使用量に匹敵するまでになっているというのに。

2.物質循環の断絶
 急激な経済発展により、生活の利便性は向上したとはいえ、資源やエネルギーの過剰消費によって、近年、化学物質の汚染、温暖化、廃棄物の増大など人類の存亡に係る問題に直面することとなった。日本は、化石燃料の9割、食料の6割、木材の8割以上を海外に依存しているにも拘わらず、廃棄物やCO2の増加に歯止めがかからないまま、バルブ崩壊以降も推移してきている。大量消費・大量廃棄型の社会からの脱却が迫られたことから、目指すべき社会像として、「循環型社会」という言葉が飛び交っているが、一般にはどう捉えられているのだろうか。暮らしや事業から排出される紙やプラスチックなどをリサイクルする仕組みが存在するような経済社会をいうのではない。動植物などの生命体を維持する基礎物質「水、炭素・窒素化合物、ミネラル」などが大気、土、生物、川、海などを地球規模でバランス良く循環しているような社会(生態系)のことであり、緑や土の保全・再生なくしては、在り得ないことである。永い地球の営みにより、大気中からCO2が化石資源などとして地中に固定され、生物の存在を可能せしめたにも拘わらず、人間が短期間にそれらを大量に使用した結果、大気中にCO2を増やし温暖化の要因となったのであり、自然に還らないプラスチックゴミの氾濫も、自然の分解能力を超えた物質循環の断絶の帰結である。化学物質汚染にしても食物連鎖という生態系の仕組みを蔑ろにしたためである。このように、循環型社会への転換が求められながら、打開策が見つからない今日の状況であるが、その解決の扉を開く重要なキーが森林資源の有効活用にある。しかも、我が国は世界第2位の森林率を有する国であり、森林と共に歩んできた歴史がある。

3.木材の効用
 高度成長期以前の我々の生活用品は、ほとんど自然素材(木、竹、紙、糸、土など)で作られていた。中でも木材は、生活資材、燃料などに幅広く用いられ、物質としての利用量も多かった。古材は、より小さな用途に再利用するなどし、最後は燃料として利用し尽くされていた。ゴミゼロである。木材の塗料としては漆や植物油などが利用され、化学物質の汚染の問題も発生しなかった。また、槇類などは成長が早いことから燃料や椎茸原木として循環的に利用され、落ち葉も有機肥料として利用されていた。温暖化の主原因とされるCO2の削減に関しても、建築材としての木材使用が効果的である。素材生産時に使用されるエネルギーは、鉄、アルミ、プラスチックなどと比較して、木材は数十から数百分の一のエネルギーで済み、住宅などへの長期使用によって炭素固定にもなる。伐採後は植林を行うことで、最終的に燃料として利用されてもカーボン・ニュートラルである。このように、木材の利用は、廃棄物の削減、化学物質の汚染防止、温暖化防止など重要課題の解決につながることから、建築や生活資材への地域材の利用を各地域で積極的に進めるべきである。適切な樹木の利用は、森を豊かにこそさえすれ、決して枯渇させることはない。

4.京都議定書の達成と森林整備の促進
 2008年に入り京都議定書の目標達成期間がいよいよスタートした。我が国は、1990年比-6%の温室効果ガス(GHG)の削減を2008年から2012年の間に達成しなければならない。政府は、2005年4月に京都議定書目標達成計画を閣議決定し、2007年10月にその見直し方針を発表した。それによると、2005年度のGHGの排出量は13億6000万トン-CO2で1990年比+7.8%という状況にある。これを目標数値「12億6100万トン×0.94=12億5300万トン(実際は2008-2012の5年間の平均値)」内に収めるためには、現状から13.8%の削減をしなければならない。方針では、この削減率の内、8.4%を国内の社会経済活動による見直しで、残りの5.4%のうち3.8%を森林の吸収量で、1.6%を京都メカニズム(先進国等による共同実施、途上国での削減に貢献するクリーン開発メカニズム、先進国等間の排出量取引)で賄うとしている。排出量取引もそうだが、比較的大きな森林吸収量の算入は、本来、自国の生活様式や社会経済構造の転換によって削減しなければならない努力を鈍らせるとして多くの批判があったところである。ことさら、林業関係者にとっては、これまでの政策によって国産材の利用率が2割を切るところまで落ち、山は荒れ林業の担い手は激減したうえに山村は崩壊の危機に瀕するに至っては、こんな時ばかり利用されることについて、その心中は決して穏やかではないだろう。  この吸収量の算入は、国際交渉の結果各国に割り当てられたものであるとしても、算入するからには今後本気で森林整備等への支援に取り組み、そのことがひいては今日指摘されて格差是正、特に中山間地の活性化につながるものでなければ、この目標達成も空しいものとなる。 2006年8月に我が国が条約事務局へ報告した森林経営の状況からすると、育成林(人工林、育成天然林)は1,160万ha、天然生林は1,350万haであり、この約2,500万haの内2010年までに1,750万haについて適切な整備、保全管理を行い3.8%を確保しようという計画である。しかし、これまでの実績からすると、この数値は2.9%程度に留まると予測され、この差0.9%を確保しようとすれば毎年20万haの森林整備の追加が必要となると見込まれている。

5.森林資源の有効活用と地域振興
 ここへ来て温暖化対策としての森林の公益性や石油の代替エネルギーとしての木質資源が注目されはじめてきた。今回の見直しの方針でもさらなる追加対策がなければ目標達成は困難としているが、この目標を達成したとしてもわずか半歩に過ぎない。実際に気候を安定させるには21世紀半ばにGHGを半減させなければならないことは明らだ。経済的手法としての炭素税の導入も早晩避けて通れないだろうし、この一部を森林整備に投資することが重要だ。  このように、今後の温暖化の影響と対応を予測すれば、国民挙って森林資源の保全と有効活用に取り組めるような環境整備を国が核となり促進すべきだ。昨今、中国は木材輸入国に転じ日本の木材市場に一筋の光も見え始めているし、地域材を利用しようとする市民やNPO団体の活動も少しずつ拡がりつつある。 建築というのは、もともと多くの業種が関わるという意味で裾野の広い産業である。地域材のみでなく土や竹などの地域資源を基本にした、いわゆる在来工法の建築がもっと再評価されてしかるべきである。そうすることによって、地域の大工、左官、板金をはじめ製材、木工、瓦製造業など多くの地場の雇用も確保できる。さらに、住宅などへの地域材の利用拡大と併行して、製材端材や林地残材などをチップやペレット化し石油の代替え燃料として暖房・給湯などへの利用を推進するなど、多方面の利活用も可能である。このことは、木質廃棄物の減量に加えCO2の削減にも効果的で、風力、太陽光とともに多様なエネルギー確保による地域社会の安定化にも資すると考えられる。高齢化社会を見据えて、取り扱い易いペレットなどの燃焼装置やボイラー等の国内開発を手がければ、中小の鉄工業などの再生にもつながるなど地域産業の振興も期待できよう。

6.終わりに
 戦後、拡大造林政策の下にスギ、ヒノキ、カラマツなどを中心に人工林が植林され、本市においても山林面積に占める割合は全国平均を上回る44%となった。生態系のバランス確保からもこれ以上の人工林を植栽する必要性は低いが、人々の暮らしを支える上で一定量の人工林の育成管理は必要である。現在、これらの人工林は伐期齢を迎えつつあるが、今日、間伐や道路開設などで伐採される樹木は、林内放置されるという状況になっている。公費も投じ数十年の歳月を経て育った樹木が、見捨てられているという現状は、資源小国の日本にとって看過できない問題である。安くて良いものなら外国から大量に輸入して当然という、一見もっともな論調は一考を要する。というのは、農林産物の輸入は、それらが育った土地の水や栄養分さらには自然資源の消費と一体であるからである。例えば、農産物1トンの生産に水は1,000トンを要するのであり、このことは如何に輸出国の資源を消費しているかということである。輸入農産物による生ゴミで堆肥化を進めても、土壌への窒素過多を招くという弊害も起こりうる。米の輸入を考えても赤トンボは一緒についてこないのである。赤トンボのヤゴは田圃で生まれ育つのであり、人の営みと共生している。農林業は、生産と同時にその地域の環境をも守っているのであり、農林産物を工業製品と同様に大量に輸出入するということでは、地球や地域の環境は守れないことを我々は知るべきである。大量消費・大量廃棄の経済システムが問われ、資源循環型社会の構築が求められている今日、地域の資源で成り立つ農林業の確立こそが、正常な物質循環を確保し持続可能な社会を築く途であることは、自明の理である。その意味で地域の森林資源の有効利用は、喫緊に取り組むべき課題である。それが、過疎や財源確保に悩む中山間地域の活性化に、ひいては地方分権時代の小規模自治体の自立にもつながってくるのである。